

まずは御社の事業内容を改めてご紹介いただけますでしょうか?
ハインツ日本株式会社は、世界トップシェアのトマトケチャップを製造販売しているクラフト・ハインツ・カンパニーの日本法人です。日本では小売と飲食店への卸を中心に事業展開しており、実はどちらの事業でも売上トップはトマトケチャップではなく冷凍フライドポテトの『オレアイダ』なんです。次いでデミグラスソース、ホワイトソースの順となっており、もちろんハインツの原点であるトマトケチャップ、マスタード、パスタソースなどの製造販売も行っています。
ハインツ社の商品の特徴やこだわりを教えてください。
当社の母体は150年以上前にアメリカで設立され、長年にわたり高品質な商品づくりを追求してきました。そんなハインツの日本法人である当社も、商品づくりへのこだわりはしっかり受け継いでいます。1961年の創業以来、日本の食文化や経済成長のスピードに寄り添いながら、最適な商品を生み出してきました。

たとえば業務用ソースは、日本で飲食店が急増していた高度経済成長の時代に、飲食店の方々が店舗開発やメニュー開発に少しでも集中できるよう「業務効率向上」という発想のもと生まれました。元シェフの商品開発者と生産技術者が協力し合い、専用の製造機器をつくるところから始めたこだわりの商品です。また、2022年に販売開始されたトマトケチャップは、日本の洋食文化を徹底的に研究した中で、日本の家庭で“料理”に使用しやすいようにパウチタイプのパッケージで新規展開を始めた商品。消費者の皆様にも好評いただいています。
では、今回こちらの住友不動産新宿南口ビルにオフィスを移転した経緯をお聞かせいただけますか?
私は今から6年前にハインツ日本の社長に就任しました。その直後から、よりオープンでフラットな職場をつくる手段として検討していたのが「新しいオフィスへの移転」。ただ、日本は何事においても「変化」に対する抵抗が強いという印象が私の中にあり、移転は慎重に考えていました。
そんな中、2020年のコロナ禍がきっかけで当社でも在宅ワークが普及し、社員の働き方に大きな「変化」が生じました。アフターコロナのタイミングであれば、社員が新しいオフィス環境を受け入れてくれるのではないか。そう考えた私は移転プロジェクトを急加速させ、2024年11月、晴れてここ住友不動産新宿南口ビルへの移転が実現しました。
新しいオフィスはどのようなコンセプトで企画したのでしょう。

まず決めたのは、フロアの中央にキッチンを設けること。キッチンでは営業がお客様をお招きしたり、展示会の準備をしたり、シェフが仕込みをしたりします。以前のオフィスにもキッチンはありましたが、扉で区切られていてクローズドな雰囲気だったため、今回は壁をガラス張りにしてフルオープンも可能なつくりに。社員みんなに開かれたキッチンにしたことで、商品に直接関わらない部門の社員も事業を理解し、積極的に関わってくれるようになりました。

また、17階のこのフロアは窓からの眺望が素晴らしく、景色の見える窓際をどんなエリアにするかも重要なポイントでした。いろいろ検討した結果、テーブルや椅子をカフェのように配置したコラボレーションエリアや、一人がけの椅子を窓に向けて並べたエリアなど、誰でも自由に使える場所をつくることに。社長室はないので、私もよくコラボレーションエリアで仕事をしています。社員やお客様とも気軽にコミュニケーションを取れるので気に入っています。
その他にこだわったスペースはありますか?
オフィス内でもうひとつ特徴的なのが、掘りごたつのある『SAKURA ROOM』。伝統的な和室でありながらも、オンラインミーティングで使えるモニターを設置するなど、「日本的な要素」と「テクノロジー」を併せ持った空間です。
グローバルカンパニーでありながら日本の文化も大切にする、御社らしさが詰まった部屋ですね。執務エリアにはどんなこだわりがありますか?
ホットデスク(フリーアドレス)を採用しています。部門ごとにゾーンは決まっていますが、個人に紐づくデスクはありません。現在は週3日出社制で、執務エリアのデスク以外にも仕事ができる場所はたくさんあるので、ホットデスクは効率的にスペースを活用できるいいスタイルだと思っています。
なるほど。商品がモチーフの内装や家具もたくさんあって、自社商品へ誇りが感じられるオフィスです。こんなに素敵なオフィスに実際に移転してみて、社員のみなさんの反応はいかがですか?
結果的にはとても喜んでくれました。移転前は「次のオフィスはどのような環境なんだろう」「イメージが湧かなくて不安だ」という声があったのも事実。それが移転後は、「こんなにすごいオフィスだったのか」「このオフィスに見合う仕事をしたいと思うようになった」など嬉しい声をもらっています。キャリアのある社員はホットデスクやSAKURA ROOMなどの「新しいオフィスのスタイル」には若干抵抗感があるのかなと思っていたのですが、蓋を開けてみれば、むしろ積極的に使いこなしてくれているようです。
ちなみに、移転時には私から社員一人ひとりのロッカーにウェルカムキットを用意して、手紙や、オフィスの直下にある新宿御苑の年間利用パスポートを贈りました。私からの感謝と労いを込めて…。今では気分転換に新宿御苑でミーティングをするチームもいるなど、思い思いの働き方をオフィス内外でしてくれているようです。


今振り返れば、私が社長に就任した当時は、当社の社員のエンゲージメントは日本企業の平均に対してあまり高くはありませんでした。それが、就任後の地道な取り組みにより少しずつ改善され、今回オフィスを移転したことでさらに大きく向上したのです。私が新しいオフィスを通じて送ったメッセージが社員の人たちに伝わっているのであれば、それは非常に嬉しいことです。
オフィスにお越しになるお取引先やお客様からの評判はいかがですか?
このオフィスに移転してから、さまざまな企業の方をお呼びしてオフィスツアーを開催しています。これがおかげさまでとてもご好評をいただいており、嬉しい限りです。お客様をお迎えするとき、いつも私は「当社のオフィスが素敵だからと言って、ウチに転職のエントリーをしちゃダメですよ。御社に怒られますので」と、相手の社長さんもいらっしゃる前でジョークを言ってます(笑)。
では最後に。御社にとって「新時代のオフィス」とは?
私にとってオフィスとは、「コラボレーション」「クリエイティビティ」「リスペクト」という当社の企業文化を体現する場所。つまり、協調性や創造性、お互いを尊重し合う心をさらに醸成する場所。それが私たちの考える「新時代のオフィス」の重要なコンセプトです。
そんな新しいオフィスをつくるにあたっては、幾多の困難にぶつかることも。今回の移転もそうでした。でも、私の手描きのイメージ図から思いを汲み取り、どうすれば実現できるかを一緒に考えてくれた住友不動産の方々にはとても感謝しています。もちろん、私のメッセージを前向きに受け取ってくれた社員の人たちにも。私が思い描いていた「新時代のオフィス」をこうして実現することができて、本当に嬉しく思います。